映画『シャドウワーク』で、父親から暴力を受けた過去を持つ18歳の女性・凛を演じた佐月絵美。
第66回江戸川乱歩賞を受賞した佐野広実の同名小説を、吉野竜平監督・脚本で映画化した本作は、配偶者や親から暴力を受けた女性たちを匿うシェルター〈おうち〉を舞台にしたサバイブサスペンス。吉岡里帆と奈緒がダブル主演を務め、風吹ジュン、美保純、酒井若菜、ファーストサマーウイカらが出演する。
凛を演じた佐月にとって、本作はこれまで経験したことのない役柄と向き合う挑戦となった。DVというセンシティブな題材を前に、凛を「かわいそうな被害者」としてではなく、一人の18歳の女の子として生きることを意識したという。
そして「シャドウワーク」が公開された今。これから挑戦したい役、目指す俳優像とは。話を聞いた。


「かわいそうな被害者として演じない」——『シャドウワーク』で向き合った凛を生きるための役作り
——映画『シャドウワーク』への出演が決まったとき、率直にどんな気持ちでしたか?
佐月絵美(以下、佐月):オーディションで決まったので、すごく嬉しかったです。一方で、単純なサスペンスではなく、DVを扱ったデリケートな題材でもあり、人が生きていく上でどんな選択をしていくのかについても考えさせられる作品だと思いました。これまで経験したことのない役柄だったので、不安もありました。
——最初に脚本を読んだとき、作品全体にはどんな印象を持ちましたか?
佐月:「おうち」が凛たちにとって安全なシェルターでありながらも、決して安全なだけの場所ではない。そのハラハラ感がすごいなと思いました。暴力から逃げてきているのに、別に世界が変わるわけではない。その中でも生きていかなきゃいけないんだ、というところに、どこにも感情の行き場がないような気持ちになって、「静かな絶望」を味わうような感覚になりました。
——そんな作品の中で、凛という人物を脚本段階ではどんな女性だと捉えましたか?
佐月:もちろん暴力に対する恐怖はあると思いますが、普段は明るくて、「おうち」の中を和やかな雰囲気にする、お調子者の女の子なのかなと思いました。
——凛を演じる上で、特に意識したことはありますか?
佐月:凛も物語の中では「かわいそうな女の子」の一人になってしまうと思うんですけど、決して「かわいそうな被害者」として演じないことを意識しました。どうしても最初は「被害者だからこういう表情なんじゃないか」と考えてしまっていたんですけど、監督からも「凛をかわいそうな女の子とか、被害者だと思わないで演じて」と言っていただいて。そこから、表情も動きも自由にしていいんだと思えるようになりました。凛自身は、自分のことを「被害者」だとか、「辛い」とは思っていないんじゃないか、そう考えながら演じました。
また、箸の持ち方などについては、ちゃんと教えてもらってこなかったのではないかという背景も意識しました。普通の18歳の女の子よりも少し幼く見えるようにすることも、役作りの一つとして考えました。
——撮影現場で印象に残っている出来事はありますか?
佐月:豪華なキャストの方々ばかりだったので最初はすごく緊張していましたが、ずっと一緒に暮らしてきたみたいに和やかな雰囲気で撮影することができました。皆さんとは「料理は何が好き?」とか、趣味の話をしたりもしました。あとは、奈緒さんとは、私ぐらいの年齢のときにどういう仕事をしていたのかなどのお話もしていただきました。


「役の人生を想像する」——佐月絵美が大切にする、役との向き合い方
——佐月さんは、役と向き合うときに最初に何から考えていきますか?
佐月:まずは、履歴書みたいなものを作ります。就職活動の面接で出すようなものを自分で作ってみたりして、役柄のプロフィールを細かく考えるんです。想像だったり、台本を読んで感じたことだったり、細かなプロフィールから固めていって、「こうやって生きてきたのかな」と想像して、順々に役を作っていきます。
——俳優として活動する上で、特に大切にしていることはありますか?
佐月:現場で言うと、私たちも決して「キャスト」というだけではなくて、「俳優部」であるということを常に意識していますし、大切にしています。作品を作る上では、いろんな役割の方がいる中で、私も俳優部の一員として、お芝居を常にできるように、気持ちを作って準備をしておくことはもちろん、自分にできることをやりたいと思っています。

「現場が一番の成長の機会」——佐月絵美が歩んできた、芝居との道のり
——普段の佐月さんは、周りからどんな性格だと言われることが多いですか?
佐月:結構「真面目だね」と言われます。でも、なんでもかんでも笑っちゃったり、誰も笑っていないのに笑っちゃったりするので、「変な人だね」とも言われます(笑)。自分では、結構ゲラなほうだと思います(笑)。
——お芝居を始めたいと思った原点を教えてください。
佐月:幼少期からずっとお芝居をやりたいなという気持ちは頭の片隅にありました。芸能人になりたかったわけではなくて、お芝居がしたかったんです。そんな想いを持ちながら、高校生のときに転校するタイミングがあり、そこで家族に背中を押してもらい、今の事務所に書類を出しました。お芝居って、自分自身ではどのように始めればいいのかも最初は分からなかったので、「まずは事務所に入るのかな」と思ったんです。そこから今に至ります。
——事務所に入ってから、本格的に演技を始めたんですね。最初に演技をやってみたときはどうでしたか?
佐月:最初は、台本を読むことやセリフを読むこと、「どうしたらセリフをうまく言えるか」や、「このセリフの言い回しをどうしたらいいか」など、そういうことばかり考えていました。今ではアプローチも変わり、現場でその瞬間に感じながら、お芝居ができるようになりました。当時は未熟だったなと思います。今も日々模索中ではあるんですけど(笑)。
——演技のアプローチや考え方が変わったきっかけはあったんですか?
佐月:現場に入っていく中で、少しずつお芝居の仕方やアプローチの仕方が変わっていったんだと思います。最近、レッスンを受けていると新しい子が入ってきたりするんですけれど、始めたばかりの頃の自分と同じような悩みを話しているのを見て、「ああ、私もそうだったな」と思いました。やっぱり、現場が一番の成長の機会だと思います。
「作品ごとに“本当に違うね”と言われたい」——佐月絵美が目指す、化けていける俳優
——これまで演じてきた役とは全く違う、まだ見せたことのない自分を見せられるとしたら、どんな役を演じてみたいですか?
佐月:いっぱいあります。まだちゃんと王道ヒロインみたいな役をやったことがないので、挑戦してみたいです。それと、ダークな作品が好きなので、サイコパス系の役もやってみたいですね。
——今後、一緒に作品を作ってみたい俳優さんや監督さんはいますか?
佐月:安藤サクラさんや、河合優実さんとご一緒してみたいです。お二人のように、ナチュラルに「その場にいる」というお芝居をされる方とご一緒したら、自分はどうなるんだろう、というのは気になります。監督では、岩井俊二さんや石川慶さんとご一緒したいです。ダークな、灰色みたいな作品が好きなので、そういった現場の温度感だったら、自分の個性が出たりするのかな、という期待もあります。
——なぜダークな作品に惹かれるのでしょう?
佐月:コメディなどももちろん面白いと思っているんですけど、「わ、すごいものを見たな」と感じるのは、やっぱりダークな作品のほうが多かったりするので、人間臭さとか、人間模様みたいなものが好きなので、元気な作品よりも落ち着いたり、惹かれるのかなと思っています。
——これから俳優として活動していく中で、どんな俳優になりたいですか?
佐月:作品ごとに、「本当に違うね」と言っていただけるような俳優になりたいです。自分自身も、いろんな自分を出していきたいと思っています。今回も、舞台挨拶で「本人だと分からなかった」と言っていただいたと聞きました。黒髪だった私に対して、凛は金髪だったので、それもあると思うんですけど。これからも、作品ごとに「この人、こんな役もできるんだ」と思ってもらえるような、化けていける俳優になりたいです。
——最後に、これから佐月さんのお芝居を初めて見る方、そして応援してくださっている方へ、それぞれメッセージをお願いします。
佐月:初めて見てくださる方には、これからもいろんな作品にチャレンジしていきたいと思っているので、いろんな作品を通して私を見つけてもらえたら嬉しいです。ずっとずっと、おばあちゃんになっても芝居は続けていきたいと思っています。いろんな作品で、皆さんの心を揺さぶるようなお芝居をしていきたいです。
そして、応援してくださっている方には、感謝を伝えたいです。私は自分にあまり自信がないんですけど、「応援してくれるんだ」と思えることが、もっと頑張りたいという気持ちや、これからの原動力になっています。まだまだ未熟な私を応援してくださって、本当にありがたいです。これからも頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。
〈取材・文/石原玄基〉

映画『シャドウワーク』公式サイト

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佐月絵美(さつき・えみ)
2004年2月3日生まれ、岐阜県出身。スターダストプロモーション所属。2021年に「第2回スター☆オーディション」のファイナリストに選出され、芸能活動をスタート。映画『なのに、千輝くんが甘すぎる。』『火だるま槐多よ』、NHK大河ドラマ『光る君へ』、ドラマ『量産型リコ -最後のプラモ女子の人生組み立て記-』『なんで私が神説教』『京都人の密かな愉しみRouge-継承-』などに出演。2023年には奥田瑛二監督の短編映画『ワタシって何もの』で主演を務めた。2026年9月25日公開の映画『シャドウワーク』では凛役を演じている。
Instagram:https://www.instagram.com/satsukiemi_official?igsh=MXpzejN3NGpvczc0&utm_source=qr
所属事務所公式プロフィール:スターダストプロモーション・佐月絵美 公式プロフィール


