映画やドラマ、舞台など、さまざまな作品で独自の存在感を放ってきた祷キララ。現在、映画『見上げてごらん』の公開を控えるほか、11月には『すべて真夜中の恋人たち』の公開も予定されている。
10月30日に公開を迎える映画『見上げてごらん』は、巨匠マンガ家のアシスタントを長年務める42歳の土屋輝一(演:森田剛)が、あるマンガ企画をきっかけに、29歳の編集者・潮田ユキ(演:森川葵)や40歳の新人アシスタント・山田ぽてと(演:川上友里)とともに、ものづくりと向き合っていく物語。
11月13日公開の『すべて真夜中の恋人たち』は、川上未映子の同名小説を岨手由貴子監督が映画化した作品。人との関わりを避け、静かな日々を送るフリーの校閲者・入江冬子(岸井ゆきの)が、年上の物理教師・三束(浅野忠信)との出会いをきっかけに、少しずつ日常を変化させ、自らの孤独や感情と向き合っていく。
今回のインタビューでは、出演作『見上げてごらん』『すべて真夜中の恋人たち』についてはもちろん、役作りへの向き合い方や俳優として大切にしていること、そして「自分の人生を思いっきり生きる」という現在の想いまで、祷キララの言葉を通して紐解いていく。

「好き」に向き合う人たちの姿に感じた、作品の魅力――『見上げてごらん』で感じたもの
――まずは『見上げてごらん』についてお聞きします。作品の中では、ものづくりに携わる人たちが抱える葛藤や、「好き」という気持ちの強さが描かれています。祷さんは、どんなところに魅力を感じましたか?
祷キララ(以下:祷):何かしら、ものづくりに関わっている人たちって、「自分の才能と好きなことは、ちゃんと結びついているのかな」と思う瞬間ってきっとあると思います。本作では、そういった気持ちが本当に痛いくらい分かるように描かれていて、とても好きです。現実の社会で、ものを作っていくとなると、どれだけ好きだと思っていても、気持ちが誰かに伝わらないこともある。そういう厳しさを抜きには語れない話だと思います。みんなが分かる痛みの中に、少しでも光が見えるような映画で、そんなところに魅力を感じています。
――祷さんが演じた高木紗枝という人物については、台本を読んだ段階でどのように捉えていましたか?
祷:ほとんど森川さんとのお芝居だったのですが、脚本を読んだ段階では、正直どんな人物なのか、あまりつかめませんでした。でも、作品全体を通して主人公がどういう道筋を辿っていくのか、そして「才能」や「好き」という気持ちが作品の主軸にあると考えたときに、「じゃあ、私が演じる高木はどうなんだろう」と考えていきました。そうすると、高木はマンガに携わっている人ではなく、普通に会社員として別の仕事をしている。でも、一読者としてマンガを読んでいて、心の底からマンガが大好きな人なんじゃないかなと思ったんです。仕事とはまったく関係のないところに、自分の「好き」を持っている人。そういう人物と捉えて演じました。
――今回は森本監督と佐藤監督によるダブル監督という特殊な現場でした。お二人の演出やコミュニケーションで印象に残っていることはありますか?
祷:お二人は、自然と役割分担をされている感じがありました。現場で森本さんが私たち俳優に演出するときは、森本さんと話して、その間、佐藤さんが少し離れたところから見ている。そして、「これもあるんじゃない?」というアイデアが出てくると、佐藤さんが伝えに来てくれる。みんなで話しながら作品を作っていく中で、撮影を重ねるうちに、自然とそういう役割ができていったんだと思います。二人監督だからこそ、それぞれの違う視点や強みを生かしながら、一緒に作品を作っていこう、という現場でした。
――森川さんとの共演で、特に印象に残っていることはありますか?
祷:私と森川さんは、学生時代に一緒にチアダンスをやっていて大人になってからもチアダンスを続けているという役柄だったので、練習をたくさんしました。私も森川さんもチアダンスの経験がなかったのですが、森川さんのガッツが本当にすごかったです。「次の練習までに、これを絶対にマスターしたい」という意識が強い上に、習得も早いんです。それだけじゃなくて、一度覚えたことも完璧に仕上げようとする姿勢もあって、私も一緒に練習しながら、とても影響を受けました。
――『見上げてごらん』を観る方に注目してほしいところを教えてください。
祷:自分の好きなことや、子どもの頃に好きだったことを思い出しながら観てもらえたら素敵だなと思います。自分が時間を忘れて「これ、気になる」と思えるものって、誰にでもあると思うので、そういうものを思い出しながら観てもらえたら嬉しいです。

「遊び」の意味を変えた、岨手由貴子監督との出会い――『すべて真夜中の恋人たち』
――11月には『すべて真夜中の恋人たち』の公開も控えています。出演が決まったときは、どんなことを感じましたか?
祷:まず、岨手由貴子監督が大好きで、ずっとご一緒したいと思っていたので、声をかけていただいたことが本当に嬉しかったです。脚本を読みながら原作も読んでいたのですが、原作は、言葉として発していない内側の感情がものすごく細かく描かれている小説だったので「これって、どうやって表現するんだろう」と思って、すごく挑戦的な作品になるんじゃないかと感じました。
――現場で印象に残っていることはありますか?
祷:特に印象に残っているのが、「遊びに行くんですか」というセリフの解釈について話し合った時です。岸井ゆきのさん演じる主人公、冬子が締め切りを終えて、原稿を渡しに来たときのセリフなのですが、私は最初、「遊びに行く」というと、飲みに行ったり、買い物をしたり、何か発散するようなイメージを持っていたんです。でも、岨手さんが考えていた「遊びに行く」は、もっと静かなもので、公園に行ったり、一人で知らない街をぶらぶらしたり、自分に合った時間の使い方をすることだったんです。岨手さんは「この景色のままでいいんだよ」という感じでおっしゃっていて。そこで、「遊び」は、着飾って楽しんだり、飲んで盛り上がったりすることだけではなく、自分の好きなことを楽しむことなんだと分かりました。私自身も「遊び」という言葉のイメージが広がりましたし、演じるうえでも、自分の時間を大切にできる、かっこよさと爽やかさを持った人を意識することができました。
――岸井ゆきのさんとの共演はいかがでしたか。
祷:岸井さんとは、二人とも映画が好きだったので、初めてお会いしたときから映画の話をして、すぐに打ち解けた感じがありました。岸井さんは私の出演した作品を観てくださっていて。私も岸井さんが出演されている作品が好きなので、お互い感想を言いあいました(笑)好きな映画の話ができることも嬉しかったですし、同じような熱量で映画の話ができる人だと感じて、すごく「仲間」みたいな感覚がありました。今回の作品は「光」がひとつのテーマになっていると思うのですが、岸井さんが映画をすごく好きな方だからこそ、一緒に作品を作れることが光栄でした。
――自身のキャラクター、そして映画のどんなところに注目してほしいですか?
祷:観てほしいところは、私のキャラクターというより、やっぱり冬子と三束のやり取りだと思うんです。その中で主人公に何かを提示して、物語を動かしていく人物を演じさせていただいたので、そういうところを面白がって見てもらえたらいいなと思います。
自分の人生を生きる。その先に、表現がある――祷キララが考える芝居
――これまで演じた役の中で、芝居に対する考え方が変わった役はありますか?
祷:振り返ると、結構舞台で演じた役が思い浮かびます。舞台は同じ作品を繰り返し演じるので、一つの感情や考えについて、毎日違う角度から発見がある。それが、自分の中に深く残っている理由なのかなと思います。
――役作りのプロセスについても教えてください。
祷:最近、模索し始めていて、今、もう一段違うところに行きたいと思っています。私は小学生くらいからお芝居を始めて、高校生くらいで事務所に入ったんですけど、脚本をどう読んで、どう演じるのかも分からないまま、ほとんど独学でやってきました。まさに「野良でやってきた」という感じで。でも、それだけでは限界があると思って、この2〜3年はメソッドを勉強してきました。本を読んだり、ワークショップに行ったり、いろんな監督と芝居をしたり。だから今思うのは、「自分がこの役をやるからこそ面白い」と思えるものを見つけたいです。それは結局、自分が何に興味を持って、どう考える人間なのかということにつながってくると思うので、純粋に自分が何に興味を持つのか、何が気になるのか、そこから役を作ってみようと思っています。
――監督と役について話すときに、大切にしていることはありますか?
祷:監督が正解を持っているから、それを教えてください、ということではないと思っています。監督にも「これが正解かもしれない」と思っているものがあって、私にも「これが正解かも」と思うものがある。それを掛け合わせたときに、お互いが思ってもいなかったところにたどり着くのが、一番楽しいと思うんです。だから、「教えてください」ではなくて、「ここ、分からないんですけど、何をやったら面白いですかね?」みたいな感じで話したい。実験みたいなものですね(笑)。
――祷さんにとって、「いいお芝居」とはどんなお芝居ですか?
祷:どれだけ上手いかというより、どれだけ本当にそこに存在して、ものを見て、感じて、喋っているかだと思います。そういう「存在度」みたいなものが強烈な人って、すごくいいなと思っています。例えば、青空が広がる野原にいるシーンだったら、どれだけ風を感じているか、空を感じているか。普段の自分たちも、「今日は湿気がすごくて嫌だな」とか、「この景色いいな」とか、感じながら生活しているじゃないですか。そういう、ちゃんと人として存在している状態が見えるお芝居をする人は、ずっと見ていたいなと思います。
――普段の祷さんは、周囲からどんな人だと言われることが多いですか?
祷:見る映画にもよると思うんですけど、「静かそう」と言われることは多いです。でも、私は結構、日常を楽しみたいタイプで。自分の人生を思いっきり楽しんだ上で、お芝居をやりたいと思っています。周りからは「熱い人」とか「真面目」と言われることもあります。あとは「素直」と言われますね。あまり嘘がつけないんです。「これは最高だ!」と思ったら、「やった、最高だ! ハイタッチ!」みたいになるんですけど(笑)、逆にそうじゃないときは、それもそのまま出てしまう。そういうところを含めて、「素直」と言われるのかもしれません。
――俳優という仕事を続けていく上で、これだけは忘れたくないと思っていることはありますか?
祷:最近、いろいろ振り返って、「これだな」と思っているのは、作品のために生きていくんじゃなくて、自分の人生を思いっきり生きて、その中に作品がある、という生き方がしたいということです。作品に合わせていろんな風に変われることや、作品の中でどれだけパワフルな存在でいられるかということは、俳優の仕事をしていると考えると思うんです。でも、それが主軸になってくると、自分が分からなくなってくる。そうなると、役を演じるときにも、「自分をどう使うのか」「自分は何に反応するのか」という部分が薄くなってしまう。だから、私は自分の人生の中で、いろんなことを経験したいです。怒ったり、喜んだり、仕事とは関係のないところでも、自分の人生をちゃんと生きる。そういうものが、作品で役を演じるときにも滲んでくると思っています。主軸は、やっぱり自分の人生に置いていたい。その上で、自分の表現としてやりたいことや、「こういうものを世の中に出したい」というものを持って、それを一つひとつの作品の中でどうぶつけられるか。そして、どうやって自分の現在地点を最高到達点にしていけるか。少し引いた目線で「自分はどうありたいのか」というところに立ち返りながら、俳優を続けていきたいと思っています。
――最後に、これから祷キララさんを知るActress Sceneの読者、そしてこれから出会う作品を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
祷: 私の記事を見つけて、読んでくださっている方には、まず「見つけてくれてありがとうございます」と伝えたいです。さっきの話とも重なりますが、私は自分の人生を生きながら、自分がやりたい表現や、「これが私の好きなものだ」「これは本当だ」と思えるものを突き詰めて、それを作品にぶつけて生きていきたいと思っています。それを面白がって、楽しんでもらえたら嬉しいです。自分自身、今「ここは壁だな」と思っているのが、固定観念とか、「こうしなきゃ」というもので、そこを壊していく勇気がもっと必要だと思っています。勇気が出てから動くんじゃなくて、勇気を出しながら、少しずつ壊していく。きっと生きていたら、誰にでも「これは壊せないな」と思うものがあると思うんです。私は、そういうものをこれから壊していきたい。だから、その姿も含めて、楽しんで見てもらえたら嬉しいです。
〈取材・文/石原玄基〉
映画『見上げてごらん』
2026年10月30日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開
監督:森本晶一、佐藤快磨
原案・脚本:森本晶一
出演:森田剛 森川葵 川上友里 / 阿部寛 松本まりか 武田鉄矢 / 祷キララ他
配給:ギャガ
公式サイト
映画『見上げてごらん』公式サイト
映画『すべて真夜中の恋人たち』
2026年11月13日(金)全国ロードショー
監督・脚本:岨手由貴子
原作:川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫)
出演:岸井ゆきの、浅野忠信、森田望智、深川麻衣、塩野瑛久、中村優子、長井短、祷キララ、中井友望、林裕太ほか
配給:ビターズ・エンド
公式サイト
映画『すべて真夜中の恋人たち』公式サイト

ROFILE
祷キララ
2000年3月30日生まれ、大阪府出身。
初主演作、映画『Dressing UP』(12)では、第14回TAMA NEW WAVE ベスト女優賞を受賞。『恋脳Experiment』(25)では主演を務めた。近年の主な出演作に、MBS『プロパガンダゲーム(25)』、日本テレビ『冬のなんかさ、春のなんかね(26)』、テレビ東京『俺たちバッドバーバーズ(26)』、映画『トランジット・イン・フラミンゴ』(26)、舞台『玉田企画』(26)、映画『見上げてごらん』(26)、映画『すべて真夜中の恋人たち』などがある。
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